教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(7)

小説

一線

夏休み。教員のメリットの1つとして夏休みがある。子供がいないので、緊張感や多忙感から解消され心安らぐ期間だ。始業の時間ギリギリに行けばよいし、終業時間ちょうどに退勤できる。さらに、年間40日ある年休の使い所でもある。自分の業務に支障がなければ、年休も取り放題だ。休みたい時に休めばいい。特にお盆周辺は、夏季特休も5日取れるため、年休と合わせるとかなりの期間出勤しなくてよい。小学校は特にそうだが、中学校はそうもいかない。中学校は部活や課外、県大会や地方大会、全国大会などがあるからだ。中学校教員は忙しいのだ。部活動指導に熱心な教員の奥さんは、「部活未亡人」と呼ばれるほどだ。

どうも教員意外の人たちからは、先生も一緒に休みだと思われているようだ。しかし、実際は勤務日で、ここぞとばかりに研修や会議などが入る。夏休みは教員の資質向上の期間でもあるのだ。余裕のある夏休みに教育書を読んだり、会議に参加することで自分の資質能力を上げる。それが、引いては子どもたちのよりよい教育になる。夏休みは児童にも教員にもwin-winな期間だと思う。

そんな夏休みのとある日。大学時代の友人と飲みに行くことになっていた。県外にいる友人もいるため、大体お盆と正月の年2回集まるのが定例になっている。気兼ねなく話せる自分の1番楽しみな会だ。そこでは、近況報告会とこれからの展望を大体酒のつまみにする。もちろん僕にとっての特大ネタは、長谷川さんとのことだ。かといって付き合っているというわけではないから、インパクトには欠けるがそれで十分だ。この会はつい時間が経つのを忘れる。それに比例して酒の量も増える。帰った時には、いい感じには酔っていた。酔うと気が大きくなってしまうのが、アルコールの難点だ。余計なことを言ったり、無駄に奢ったり、昔の彼女に連絡してみたり。昔にも数多くの失敗をしているのに、その時は頭にないのだ。

気が大きくなっている僕は、LINEを開き、1通のメールを送った。

『ねぇねぇねぇ』

送り先は長谷川さんだ。宛先を間違えたわけではないが、間違えた。酔っている頭が思っている以上に、この1通がもつ意味は大きかった。長谷川さんからしてみれば、今まで自分からしか送っていなかったLINEが先生の方から来たのだ。しかも敬語ではなく、かまって欲しそうなLINE。

今まできちんと守ってきた一線に足を踏み入れた瞬間だった。ダメだとわかっていたのに。「担任教師」と「保護者」の38度戦を今越えようとしてた。

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