出会い
僕は田舎町で先生をしている。
晴れて先生になったのは5年前。自宅から車で45分ほど東にある中学校に赴任した。
そこの中学校で充実した4年間を過ごした僕は、次も中学校を希望したが、叶わず小学校に異動することになった。
今度は自宅から西に45分。前は距離こそ長かったが、信号が少ない1本道だったため、通勤にストレスはほとんどなかった。
それに比べると今度の赴任先は、大きな国道や県道を跨ぐため信号や混雑が煩わしい。
朝からうんざりする。
そして、さらにうんざりしたのが、小学生の生態だ。
友達が話している途中でも平気で割り込む。うんこで爆笑する。後先を考えない。
中学生とのギャップに苦労した1年目を過ごした。
校長からの担任発表で、次の担当は3年生になった。「おいおい、ちびっこの相手かよ」と思ったが、それが僕たちの始まりだった。
気持ち新たに3年担任としての新学期が始まった。前担任がベテランの先生だったため、子どもたちは何でも自分たちでできた。
発達段階に合わせた教育がされており、とてもしつけられていた。素直で明るくていい子。自分の目には、全員そう映った。
30人いれば、色々な家庭環境の子がいる。3世帯家族、核家族、片親。田舎だからかそこまで片親は多くはないが、それでも、いないわけではない。
その中の1人にやよいちゃんという女の子がいた。3月生まれだからだそうだ。
早生まれだが、身長はやや高い方で、おませさん。クラスに1人はいる、靴下を膝上まであげる子。
案の定、持ち物は、いつも綺麗に整っていた。そんなやよいちゃんが、ある日言ってきた。
「ママね、先生と同じ年の彼氏いるんやで。」
「そうなんや。ママいくつ?」
「40」
「えーすごいね!10こ下や!」
「ふふふ。」
10こも下の男が惹かれるぐらいだから、それなりに小綺麗にしている人なんだろう。
ゴシップネタだけに興味が湧いたが、日々の忙しさの中では、どうでもいい話の1つとして通り過ぎていった。
最初の出会いは4月の終わりだった。
朝児童玄関前を通り過ぎようとすると、玄関先に1人の女の人が体操服を持って立っていた。
忘れ物を届けに来られたんだなと思い、扉を開けた。
「長谷川ですけど。」
「長谷川さん・・・?」
「3年の長谷川やよいの」
「あーやよいちゃんの。預かりますね。」
ガラスごしでは分からなかったが、近くで見ると目が大きく、髪型は茶髪のボブ。
着ている物は、素人目にも高級だと分かる物だ。
「派手」という2文字が頭に浮かんだ。
夜な夜な遊んでそうで自分の苦手なタイプだった。
放課後に母親の名前を確認してみると、「サリナ」となっていた。
さらに、勤め先は某保険会社。
名前と仕事まで「派手」だ。彼氏の1人や2人いても不思議ではないな。
それが、僕の長谷川さんに抱いた第一印象だった。
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