教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(12)

小説

価値観

長谷川さんはよく笑う。こんなん面白いか、と思う自分のツッコミでさえもケラケラと笑う。自分のツッコミで笑っているというよりも、自分の行動に笑っている。そこに自分のツッコミが調味料程度についただけだ。よく笑う人を相手にしていると、こちらも気分が明るくなる。会話はいつも楽しい。

よく価値観が合うとか合わないとか言う。僕自身も前の離婚については、いつも「価値観の違いで」とことあるごとに言ってきた。説明が面倒なときにとても便利な言葉だと思うし、実際にそうだった。何に価値を置くか。人それぞれの考え方や生き方が反映されている。価値観が似ていれば、お互いにストレスなく暮らせそうだ。僕自身はそれほど不満なく生活していたつもりだったが、相手はそうでななかったらしい。離婚は結婚よりエネルギーがいる。負への行動はかなりエネルギーを消耗するのか、もう二度とごめんだ。特に自分たちだけの問題ならいいが、家族や親戚を巻き込むことが心苦しかった。そのころは自分の祖父も生きていたから、祖父に離婚を告げるのが1番心が痛んだ。ごめん、おじいちゃん。僕たちを可愛がってくれたのに。

長谷川さんもバツ1だったからお互いにそういう経緯の話をすることもあった。長谷川さんは、話をするたび「先生離婚してよかったわ。」「なんやその女、だらくさい。」と励ましてくれた。それは、心から同じ女として嫌悪している言い方だった。長谷川さんは意外と古風なのだ。料理、洗濯、掃除は女の仕事、男に作らせるなんかありえない。男を立てるのが当たり前。そんな考えの持ち主だった。

また、不倫なんてくだらんと蔑む。これまた意外と正統派な考え。しかし僕が、「え?今そうなんじゃないの」と聞くと、「私は違うよ。本気やもん。」と答える。つまり、片手間になんか寂しいからついズルズルと、というような不倫がくだらないらしい。

「好きでもないもんとよういれるわ。」

「はよ別れればいいのに。」

はっきり、スッキリがお好みなようだった。

だから、僕が現れたことで、今の旦那と別れるようだ。結婚していようがいまいがお構いなし。好きじゃない人とは一緒に居れない。我慢をしない女。それが長谷川さんだ。旦那さんの方が、僕よりもはるかに経済力があるのに、「そんなん関係ない。」らしい。好きかどうか、一緒にいて楽しいかどうか、それが長谷川さんにとっての基準なのだ。その強さに憧れたが、自分にはドラマの中のことでしか考えられなかった。自分に向いているうちはいいが、外に向いたら一瞬だ。この頃から、旦那との離婚を視野に入れていたようだ。

長谷川さんの価値観を知ることが楽しみの1つだった。

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