教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(13)

小説

相手

長谷川さんといるのは楽しかったが、1つ気がかりがある。それは、長谷川さんの旦那さんの存在だ。基本的に婚約中、パートナーが不倫してた場合は、パートナーとその不倫相手に慰謝料を請求できる。その不倫相手が僕となると、バレて離婚となった場合、僕にも慰謝料支払いの義務が生じる。額は100万単位なので、安月給の僕にとってはかなりの痛手だ。

僕の内心をよそに、長谷川さんは何も気にしていない様子だった。基本的に強メンタルの持ち主なのだ。ある1点を除いては。それについては、いずれ説明しよう。

旦那さんのことを長谷川さんはJと呼んでいたので、ここでもそう呼ばせてもらう。Jは長谷川さんと同じ系列会社の社員で、高給取りだ。営業ではなく、総合職と呼ばれるようで年収1000万以上はある。基本的にお金が好きな長谷川さんなので、相手として選ぶには申し分ない。さらにJは不動産投資などにも長けているため、収入の柱が他にもあるようだった。慰謝料なんていらないような経済力だが、逆にお金にはシビアなのだろう。そうでなければ、不動産投資などには手を出さない。お金が欲しいから投資するのだ。

しかし、長谷川さんが気にする様子はない。それは、Jが関西圏で単身赴任をしているからだ。基本的に家におらず、帰ってくるのも月1、2回程度のようだ。そういえばと、ぼんやりと顔を思い出した。あの社会見学の時、2人で手を振っていたような。思い返して、それなら少し安心できそうだと思った。興信所に依頼する人がどの程度いるかは知らないが、そうでなければ大丈夫そうだ。

また、長谷川さんもやよいちゃんもあまりJにいい印象をもっていないようだった。長谷川さんは、Jがたまに帰ってくるのも嫌なのだという。その度に聞く。

「なんで結婚したの?」

「わからんて、いつの間にかそうなってた。」

Jからアプローチしたようで、両親がいない長谷川さんにとっては、ほぼ自分の裁量でトントンと話が前に進んでいったらしい。経済力もあるし、一緒に住む必要もなければ、「旦那元気で留守がいい」とはよく言ったもので、条件としては悪くなかったのだろう。そういう経緯があるようだった。

さらに、Jは稼ぎがあるにも関わらず、電車賃をキセルすることがあるらしい。そういうみみっちい男が長谷川さんは嫌いなのだ。前述したが長谷川さんは意外と古風なところがある。それは、男性は外でお金を稼ぎ、食事に行った時などは男が支払いをするということでもある。男は豪胆さも大事だということだ。数百円の電車賃をケチるような男を長谷川さんがいいと思うはずがない。

また、Jがちょこちょこやよいちゃんにちょっかいを出すことも、長谷川さんもやよいちゃんも不快に思っていた。Jとやよいちゃんが2人の時に、決定的ではないがそれとなく性的な感じがする行為あったようで、それに対して母娘とも嫌悪感を抱いたようだ。別れる時もそれを理由にすると言っていた。

長谷川さんが強メンタルでいられるのは、それなりの材料もあってのことだった。しかし、会うのも月1程度なためそれほど害がなかったのだろう。Jと長谷川んは一時期駅裏に建設しているマンションの購入を検討していた。その額5000万。一戸建てでないのに、それだけすることに驚いた。田舎の駅裏といえど、なかなかにするものだ。その話を聞いて羨ましさが出てしまっていたのか、強メンタルの長谷川さんは、冗談とも本気とも取れる提案をしてきた。

「先生一緒に下見いこっさ。」

「買ったら先生も来てね。」

恐ろしいことをサラリと言う人だ。小心者が行けるわけがない。丁重にお断りをしておいた。

安心は油断を、油断はスキを生む。僕と長谷川さんは、まさかの事態に陥ることになった。

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