教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(14)

小説

冷や汗

日曜日、僕は長谷川さんに紹介してもらった美容室にいた。美容室の後は、長谷川さんと落ち合う予定だった。ようやくカットが終わった頃、長谷川さんから着信があった。

「はい、もしもしー」

「ねねねね、怖いー」

初めて聞く長谷川さんの動揺した声。何事かと思った。

「どうしたんですか。」と聞くと、

「Jがいたんやって!信号待ちしてたら、前の車がJやったの!」

「えー!」

そう言っている間に、長谷川さんの車が見えた。

血相を変えながら車に乗った長谷川さんに、ことの経緯を聞いた。

「会社の近くの信号で止まったんやけど、前の車のナンバーふと見たんやの。そしたら、あれ、M市ナンバーの5・・・なんか見覚えあるなと思ったの。それで車見たらJの車やって、すぐ細い道曲がってきた。」

確かに、この県ではM市ナンバーはありえない。それが、長谷川さんの会社の近くを走っていた。地名とナンバーと車種が同じなら、ほぼ確実だ。

僕も焦りだした。まだ、その辺にいるはずだ。だけど、今の僕の車だからバレるはずはない。Jが僕の車を知っているはずがない。知らない車に長谷川さんが乗っているとは思わないだろう。全部の車をいちいちチェックなどできないし、浮気を疑っていない限りそんなことはしない。自分がJの立場でもそうだ。限りなく低い可能性ではなるが、それでも0ではない。

「メールしてみたらどうですか。」

長谷川さんに、本当にJだったか確かめるよう促した。

「そうするわ。」と言って、LINEをした。

LINEはすぐ返ってきた。

「サリナに会いたくなって、言わずに帰ってきたよ。今暇?」

本当だった。長谷川さんが見たのは紛れもなくJの車だったのだ。

「えー今からは無理やって。仕事やもん。やよいかってバレエあるし。」

「そうなんや、なんやせっかく帰ってきたのに。ほな、どっかで暇潰して帰るわ。」

長谷川さんは少しも会う気はないらしい。遠方から帰ってきた旦那を思うと、少し可哀想な気がした。

「え、いいんですか。」

「いいんやって、会いたくないもん。」

急に帰ってくる方もくる方だが、会わない方も会わない方だ。ますます、なぜ結婚したのかと思った。

とりあえず、どこで鉢合わせるか分からないため、高速乗り場から離れた町の外れの方の喫茶店に入った。

どんな様子の店だったか僕は今でも覚えているが、長谷川さんは焦りすぎて、今日の日のことを全然覚えていなかった。

僕は平生を装っていたが、内心は僕もヒヤヒヤしていた。男も浮気を確信したら色々な方法で突き止めようとするからだ。また、旦那も警戒しなければならないが、学校の児童保護者の目も警戒しなければならない。

今は、世間的には、日のあたる場所は歩けない関係なのだ。

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