教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(15)

小説

保護者会

長谷川さんと出会って5ヶ月。12月になった。

12月を師走とはよく言ったもので、1年の中でも忙しい月トップ3に入る。12月は2学期のまとめの月であり、保護者会がある。保護者会に渡す通知表のための成績づけに追われるのだ。テストを終わらせ、丸付けをし、所見を書く。この所見の部分に時間がかかる。Twitterのように文字数制限があり、その中に4ヶ月分を詰め込まなければならない。教科のこと、生活のこと、行事のこと。その子の活躍した場面を切り取る。書く視点はあるのだが、意外と普通の子の所見に苦戦する。おそらくどの教師も経験があるだろう。飛び抜けてできる子、目立つ子、逆に手がかかる子は、よく目がいき、書くことがあるのだ。しかし、可もなく不可もなく控えめな子は書きづらい。書くほどのことでもないことが多いからだ。

成績づけの他にも、様々な書類の提出も求められる。また、終業式の日には教師の忘年会もある。一般企業と違い、教師の忘年会は早く、こぞって終業式の日に行われる。この日の温泉街は教師で溢れかえる。懐かしい顔に遭うこともある。忘年会の幹事であれば、その準備にも追われる。

そんな12月の保護者会。長谷川さんは、わざと午前の部の1番最後に希望を出してきた。少しでも長く話すためだ。

長谷川さんは、最近やたらと「かっこいい」「先生好きやわ」と言う。亀梨よりも小栗旬よりもかっこいいというのだから、もはや病気だ。ナダル的に言うと「いっちゃってる」状態だ。何がそんなにいいのか分からないが、その度に「私は先生の雰囲気が好きなの。顔じゃないの。」と逆に失礼なことを言う。

そんな長谷川さんは、保護者会の日、ピンクのワンピースに身を包んできた。保護者によるが、やはりそれなりの格好をしてくる人と、ラフな格好でくる人とがいる。きちっとした格好をしてくる人には、それなりの対応をしたくなる。人間だもの。保護者がどういう思いで保護者会を捉えているのかは分からないが、人間性が出るなと思う。自分が親だったら、子どもが世話になっている先生にお会いするときには、それなりの格好で行くと思う。

長谷川さんは、手土産にスパムおにぎりを差し入れしてきた。差し入れをする保護者に出会ったのは、長谷川さんが初めてだ。

「先生これ食べてください。」

「ありがとうございます。」と言って素直に受けとった。一通り話し終えて廊下に出ると、先輩先生がいてドキッとした。ほかの用事だったようだが、聞かれたかと思ってヒヤヒヤした。他の保護者とは雰囲気は違っただろうから、分かる人には分かるだろう。

職員室に戻り、机の上に用意されたお弁当を食べた。もらったスパムおにぎりも人目を忍んでいただいた。

社内恋愛を隠しているカップルのようだった。僕的には、その比ではないのだけれど。

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