露呈
保護者会も終わり、終業式の日を迎えた。
1学期と2学期の終業式は清々しい。後ろに長期休暇が待っているため、児童も教師も気持ちよくさよならができる。
子どもを帰した後は、お待ちかねの忘年会だ。以前中学校に勤めていたときの忘年会は本当に楽しみだった。男先生が多く、一緒な世代の先生と出し物を用意したり、麻雀をしたり、先輩先生の武勇伝を聞けたり「よし、行くぞ!」という気持ちでいた。
それに比べると、小学校は女性の先生が多く、どちらかというと2次会にしっとり飲む感じだった。嫌いではないが、中学校ほどの高揚感はなかった。それでも気心の知れた男性教員もいたので、幾分かは楽しみだった。
忘年会はE市の温泉。冬はカニが食べられるということで、それはそれで楽しみの一つにはなった。今回は幹事役だったため、席やくじのセッテイング、余興もすることになっていた。1次会は一通り盛り上がり、2次会となった。2次会では、テーブルを囲んで飲む形になった。
ここで僕のいつもの悪い癖が出てしまう。酔うと恋バナ・下ネタ路線に走ってしまうのだ。そして、テンションも上がる。普段の様子と違う意気揚々とした感じになるため、以前の中学校では、一杯飲んでから(仕事)来たら?といじられることもあった。また、友人の間でも酔うと面白いやつというというポジションだ。それで大学時代から色々失敗はしているのだが・・・
そのため、小学校の女性教員の多い中であまりふさわしくないとは思いつつも、ほどよくスイッチが入っていった。口もよく回るようになり、いらないことを口走ってしまった。直接名前は出していないが、長谷川さんの話をしてしまったのだ。年映えや年収、家族状況などのプロフィールと今までのちょっとした話を。僕は、同じようなプロフィールの人は世の中に少なくないと思っていたし、バレるわけはないとたかを括っていた。さらに、自分にとっても特殊な事情が新鮮だったことも口数を多くした。
翌朝、学校に帰って来て幹事役として片付けをしていると、1人の女先生が寄ってきた。賢く、気が利き、熱心なベテラン先生だ。
「幹事お疲れ様。余興よかったね。」
「お疲れ様でした。ありがとうございました。」
「ね、昨日の話ってまさかやよいちゃんのお母さんじゃないよね。」
「やよいちゃんの?い、いえ、違いますよ。」
「そっか、なんかこの間店紹介してもらったって言ってたし、状況が似てたから。」
「やよいちゃんのお母さんて、そうなんですか。」
必死に誤魔化し、必死にとぼけた。だけど、咄嗟すぎて全然上手くできていなかっただろう。自分では知らないだけで、とぼけた時、嘘をついている時などは相手にはわかっていることも多い。僕も顔に出ていただろうが、その先生はそれ以上追求せずにその場を去っていった。
やらかした、喋りすぎたと激しく後悔した。さすがにバレたと思った。実は、その先生は以前やよいちゃんの担任をしていたからだ。僕の話を聞いて、そうだと確信したのだろう。僕は、何人もいるであろう人のことを話していると思っていたが、きっとその先生は1人を想像しながら聞いていた。
帰りの車の中でもずっと頭から離れなかった。どんなこと言ったけ、これで分かったのか、さっきの対応はどうだったか。過ぎてしまったことを何回も何回も考えていた。酔っている時と違い、シラフの時は小心者の肝の小さい男なのだ。よわっちい。
そのことを長谷川さんに報告した。
「えーそうなんか!そんなん言わんでよかったのに。笑
大丈夫やって、気にしてないって。ほんでさ・・・」
そうやって励ましてくれたが、僕はうーんと沈んでいた。
自分で露呈してしまったことに、呆れた。隠してるんとちゃうんかい。見栄っ張りが。場を弁えんか。自分を叱咤した。
大学生みたいに、1から10まで話すものではない。
TPOを弁えることが大人の付き合いだと、自分に強く言い聞かせた。
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