教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(21)

小説

引っ越してからわかったことがもう一つある。

長谷川さんは、組み立てができないということである。

どんな簡単な工程のイスでも「先生やってや。」と言う。

「いやいや、説明書見ればわかるでしょ。」と言っても、

「分からんもん。」と言う。

最初から分からないと決めてかかり、決して作ろうとしない。

だから、ラック、棚、やよいちゃんの勉強机など家具屋で買ったもの全て僕が作った。

休日返上で。

全く世話が焼ける人だ。

もう一つある。

長谷川さんは、裁縫ができない。

体操服のゼッケンもつけれないというのだ。

「これ私がしたの。見てや。」と出してきた体操服は、背中と胸の生地が縫い合わされていた。

波縫いぐらい誰でもできるし、玉留めもろくにできない女性を初めて見た。

だから、やよいちゃんの体操服のゼッケンも僕が縫った。夜なべをして。

「先生すごーい。」と本当に感心していた。

本当に世話の焼ける人だ。

今までどうしていたのか聞くと、雑巾はばあちゃんに、やよいちゃんのバレエの衣装を手直ししないといけない時は、職場の女性に頼んでいたらしい。

どうしても誰もいなかった時に、仕方なく長谷川さんがやよいちゃんのカバンに名前を縫ってやったことがあったらしいが、バレエスクールでやよいちゃんの友達や先生に「それ誰がやったの笑」と子どもにも笑われるほど曲がっていたらしい。

実際に現物を見たが、裁縫習いたての小5男子児童が作ったのかと思ったほどだ。

女性といえど、皆大和撫子というわけではないことを知った。

ある意味、得手不得手が明確だと、役割分担がはっきりしていて良い。

お互いがある程度できると、できていないところが目につくものだ。

しかし、長谷川さんは家事全般ができないというわけではない。

長谷川さんの作る料理は美味いし、掃除も毎日する。洗濯も衣類に合わせて洗剤を変えたり、干し方を変えたりする。そういうのは共働きといえど、「女の仕事」と考える人なのだ。

仕事をしながら(それも僕よりも2倍も稼ぎながら)、家事もこなし、女手一つで娘を育てている。

「あそこはシングルマザーだから」と周りに言われたくない思いがあるようだ。

だから、仕事もしないで家でろくに家事もしない母親を見ると「アッパみたいな女。金払ってでもいらんわ。」と罵る。

そこまで言わなくてもいいと思うが、そう言えるだけの自負もあるのだろう。

さて、自分を顧みると、人のことはよーく見えるが、自分が1人の彼氏として旦那としてできることって果たして何があるだろうかとふと思ってしまった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました