2017年夏。
8月の終わりに、隣の県の温泉街に行った。
ここは2人で初めて行く旅館だ。
以前地元の温泉街に行った時も長谷川さんの奢りでグレードが高い部屋だったが、今回も長谷川さんの奢りだ。
臨時収入が入ったとかで、「行こっさ」と誘われた。奢られるのも情けないが、年収が2倍近く違うのも情けない。情けないというか理不尽だといつも思う。
長谷川さんは専門学校、僕は国立大学。学歴も僕の方がいい。
長谷川さんは9時出社で日中の時間は自分の自由、僕は7時出勤の13時間勤務。
なのに、なぜこんなにも年収が違うのか。
教員てやりがいのある仕事だと言われるが、やりがい搾取が甚だしい。やりがいなんて正直一銭にもならないのに。
もちろんお金だけが全てではないが、お金無くして自由なしだ。
話を戻そう。どうも、人づてにこの温泉が「いい」と聞いて、来てみたかったそうなのだ。
どうも部屋のグレードを上げると、その人たちだけが入れるラウンジがあり、シャンパンが飲み放題なのだそうだ。
案内に従って入ってみると、jazzyな音楽が流れるラウンジに通された。
座り心地の良いソファに、見晴らしの良いテラス席、時間がゆっくり流れるような空間だった。
分不相応ではあるがこういう空間があると知るのも、1つの教養だ。
一旦部屋に入り荷物を置いて、ラウンジに戻った。シャンパンを開け、少しだけ飲む。
そこまで高いものではないと思うが、雰囲気がシャンパンの格を上げた。
旅館での詳細は省くが、料理も風呂もとても満足行くものだった。
次の日、ラウンジでゆっくりしてから会計をしてもらった時に、
品のいい受付の女性がこんなことを言った。
「お話しされている雰囲気がとってもお似合いで、どこのカップルよりも素敵でした。」
後から友達に自慢げに話すと「そんなもん、誰にでも言ってるわ」と言われて、「確かに」と恥ずかしくなった覚えがある。
だけど、その時の女性の表情や声色が、本当にそう思っているように感じれらた。
そして、その言葉は僕の背中をそっと押すこととなった。
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