教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(23)

小説

2017年夏。

8月の終わりに、隣の県の温泉街に行った。

ここは2人で初めて行く旅館だ。

以前地元の温泉街に行った時も長谷川さんの奢りでグレードが高い部屋だったが、今回も長谷川さんの奢りだ。

臨時収入が入ったとかで、「行こっさ」と誘われた。奢られるのも情けないが、年収が2倍近く違うのも情けない。情けないというか理不尽だといつも思う。

長谷川さんは専門学校、僕は国立大学。学歴も僕の方がいい。

長谷川さんは9時出社で日中の時間は自分の自由、僕は7時出勤の13時間勤務。

なのに、なぜこんなにも年収が違うのか。

教員てやりがいのある仕事だと言われるが、やりがい搾取が甚だしい。やりがいなんて正直一銭にもならないのに。

もちろんお金だけが全てではないが、お金無くして自由なしだ。

話を戻そう。どうも、人づてにこの温泉が「いい」と聞いて、来てみたかったそうなのだ。

どうも部屋のグレードを上げると、その人たちだけが入れるラウンジがあり、シャンパンが飲み放題なのだそうだ。

案内に従って入ってみると、jazzyな音楽が流れるラウンジに通された。

座り心地の良いソファに、見晴らしの良いテラス席、時間がゆっくり流れるような空間だった。

分不相応ではあるがこういう空間があると知るのも、1つの教養だ。

一旦部屋に入り荷物を置いて、ラウンジに戻った。シャンパンを開け、少しだけ飲む。

そこまで高いものではないと思うが、雰囲気がシャンパンの格を上げた。

旅館での詳細は省くが、料理も風呂もとても満足行くものだった。

次の日、ラウンジでゆっくりしてから会計をしてもらった時に、

品のいい受付の女性がこんなことを言った。

「お話しされている雰囲気がとってもお似合いで、どこのカップルよりも素敵でした。」

後から友達に自慢げに話すと「そんなもん、誰にでも言ってるわ」と言われて、「確かに」と恥ずかしくなった覚えがある。

だけど、その時の女性の表情や声色が、本当にそう思っているように感じれらた。

そして、その言葉は僕の背中をそっと押すこととなった。

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