教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(28)

小説

雪どけはすぐに来た。

長谷川さんと僕は毎日電話する。

朝と夜、2回もだ。

何なら、何かあればすぐに電話をかけてくるため、2回で収まる方が少ない。

僕からかけることはなく、いつも長谷川さんからだ。

この日も雪かきをした夜に電話がかかってきた。

「先生、ありがと」

「うん」

「にしても腹立つわ、あいつ(後輩同僚)。自分でなんもせんくせに、先生駆り出させて。」

どうも怒りの矛先は後輩同僚だったようだ。

長谷川さんは自分がなんでも早めにする性分なため、呑気なのが嫌いだ。

仕事のアポもプライベートの予約も思い立ったときにしてしまう。

そのため、自分で雪かきもせず呑気にほったらかしていた分を、人に手伝ってもらう、しかも大好きな先生(僕)に手伝わしたことが許せないのだ。しかもそのせいで自分も被害を受けたから尚更だ。

「今度あったら言ってやるわ。『ちょっとあんた!なんで先生に雪かきさせるんやって。』って」

はっきり言って、長谷川さんを敵に回すのは得策ではない。何人も被害者を見てきた。

営業をやっている分、誠意のない業者などには手厳しい。

相手が子供を預けている教師だろうが、駅員だろうが宅配業者だろうが容赦がない。

口から生まれてきたとはこの人のことを言うのだろうと思った。

「もう腰と腕パンパン。先生に肩揉んでもらわなあかん。」

長谷川さんは、慢性的に肩がかたく、いつも僕にマッサージをさせる。だから、いつも僕は言うのだ。

「何、巨乳でもないのに一丁前に肩だけ凝るの。」

「www」

電話ごしにニカッと笑う顔が思い浮かぶ。

いつもの会話に戻ってきた。

こんな冗談を言えるようになったのもつい最近のことだ。

というか今までお付き合いをしてきた女性にこんな冗談は言ったことがない。

相手に対して変に気を遣っていたのかもしれない。

いや、どちらかと言うと、気を遣わせない長谷川さんの人柄なのだろう。

自分がこれほど気楽に、楽しく居れる異性に出会ったことがなかった。

それに気づいた時に、僕を何かが突き動かした。

そして、僕は僕らしからぬ行動をとった。

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