教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(29)

小説

長谷川さん42歳、僕32歳。

正直、離婚してからかなり慎重になっている自分がいた。

離婚2回は自分の中では絶対に避けたいと思っていた。しかし、思えば思うほど慎重になる。

一方で離婚を経験しているからこそ、結婚生活に大切なことが自分の中で明確になり、そこさえ抑えれば誰でもいいという思いもあった。

そこに長谷川さんがダークホース的に現れた。もちろん、最初はお付き合いも遠慮しようと思っていた。

しかし、日々を過ごすなかで長谷川さんの本気度が感じられ、安心感を抱くようになった。この人は裏切らない。

何より、自分にないものを持っているからだろうか、頼り甲斐がある。もちろん年上という部分もあるが、メンタル面や考え方、そして気遣いができる。

僕は素敵な旦那さんには、必ず素敵な奥さんがいると思っている。

というよりも、旦那をいい男たらしめるのが、妻だと思っている。

自分の持ち物の多くが長谷川さんチョイスだ。洋服も褒められることが多くなった。

特に顕著なのが、職場や友人への贈り物だ。常に長谷川さんチョイス。それで外したことがない。

特に女性職員に喜ばれる。「わかってね、あの人」は長谷川さんが創り上げたものだ。

そういう自分ではできないところ、気づかないところをサポートしてくれる存在は有難い。

そんな稀有な存在に気づいた僕は、ある行動に出た。

親へ紹介したのだ。

長谷川さんとの経緯など諸々を話した。長谷川さんとも会わせた。

もちろん親はいい顔はしなかった。母親は連日ため息をついていた。

気持ちはわかる。とても。

父親は、家柄、職種で「ない」と判断した。保険会社を「人を騙す仕事」とまで言った。

まぁ昔の人はそういう認識なのだろう。

長谷川さんの働きぶりを見たこともないのに、という思いが強くあった。

過去に父は、弟が介護系の職業に就こうとした時にも「年寄りの世話をして何が楽しいんや」と言っていたことを思い出した。

息子を案ずる気持ちなのか、本心なのか、教師をしていた父を1人の人間として認識するようになった。

そして自分でも驚くことに、親に反論したのだ。そう、今来たのだ。32歳の反抗期。

自分の考えは伝えたつもりだ。だけど、親の憔悴ぶりもなかなか見ていられるものでもなかった。

期待に応えられていないし、そんなつもりで育ててきたつもりでもないだろう。

現実として、赤の他人の子が一緒に住むようになることや子どもを授かれるのかどうかなど、勢いだけではどうにもならないことにも直面しなければならない。

自分でも系譜を繋いでいかなければならない使命は感じていた。死んだじいさんに合わせる顔はあるのか。

この時期はいろんな思いが錯綜した。何が正解なのか分からなかった。考えすぎて考えることに疲れた。

そして、考えることをやめた。

何かが何かを変えてくれる転機を待つことにした。転機は自分の行動からしか生まれないのだけれど。

しかし、今回で得たものもあった。

反抗したことで、何か少し大人になれたような気がした。

だいぶ今更だけれど。

「一皮剥けた」、「殻を破れた」と表現するのだろうが、結局これも長谷川さんのおかげなのだ。

さて、人生における正解とは何だろうか。

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