教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(34)

小説

長谷川さんと一時期子作りに励んだことがある。

既成事実を作れば一緒になることができると思っていた。

そこで、長谷川さんの希望もあって某レディースクリニックに2人で行った。

レディースクリニック。男1人では一生入ることがないであろう場所だ。

玄関に入ると患者の多さに驚いた。それぞれに理由があるのだろうが、こんなにもお世話になる方がいる世界なのだと知った。

かつて知り合いで不妊治療に通っている女性がいた。子どもが欲しくて、何度も通ってはそのたびに少なくない金額を払い、人工授精や体外受精となるとさらに費用がかかるということだった。

人によってはすぐにできる人もいれば、時間と費用をかけないとできない人もいる。その労力が報われない人だっている。そう思うと、子どもは授かりもので、本来ならできるだけで幸せなことだ。

当たり前のよう当たり前ではない。一見分からなくても不妊に悩んでる方は存在する。男としてそんな女性に不用意な発言はできないなと思ったし、女性同士であっても言動には配慮が必要だと感じた。

長谷川さんが言っていたが、待合室に子連れの女性がいたのだが、本来は連れてくるべきではないのだという。赤ちゃんができなくて悩んでいる人には酷なことだと。

なるほどと納得した。不安や焦りと戦いながら、もしかすると周りから嫌味を言われながら通っている人もいるだろう。自分にはできないかもしれない子どもがいる人のことを羨み、妬み、さらには自尊心、自己有用感や肯定感を否定することになりかねない。

そう思うと確かに、待合室は明るい雰囲気の場所ではなかった。

長谷川さんは42歳になる。1人産んでるとはいえ、高齢出産であり厳しいことに変わりはない。

よく新聞に有名人が高齢で第一子を授かったニュースが載っているが、書いていないだけでどれだけの治療とどれだけの費用をかけているかは分からない。有名人だからできる治療もあっただろう。

それを僕らのような一般人に安易には当てはめられない。

しかし、可能性は低いにしても0ではない。

以前長谷川さんが検査に来た時には、特別体に異常は見当たらなかった。だから、パートナーである僕も検査が必要だということで今回一緒に来たわけだ。

男性の場合、精子を検査する。

紙コップを渡され、個室に入り、精子を出すよう指示された。

個室には、簡単な椅子と机とティッシュ。そして傍にはエロ雑誌が置いてあった。

僕はエロ雑誌を読むのが久しぶりだったので、手にとってみた。

ど熟女&ブサイク素人。

なぜこのチョイスなのかw 誰をダーゲットとしているのか甚だ疑問である。

あるでしょうよ。もっと有名どころのが。

仕方なく、それしかないのでそれでイクことにした。

ピ。

少量も少量。当然だ。

しかしながら不本意極まりない。いつもの僕はこんなんじゃない!

そう看護婦さんに言い訳したかったが、何くわぬ顔で提出した。

結果は後日ということだったので、お会計をしてクリニックをあとにした。

車の中で少なかったことを長谷川さんに話すと、

「携帯で動画見ればよかったのに」

「あ」

僕の悪いところだ。あるもので我慢してしまう。考えない。仕方ないと思ってしまう。

その結果があの量だ。

思考力・判断力・表現力 △

ぐうの音も出ない評価。

情けなかった。悔しかった。変わりたかった。

僕は、帰り際本屋に寄り1冊の本を購入した。

「失敗の本質」

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