教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(38)

小説

淡路島旅行2

この歳になると、旅館に早めにチェックインしてのんびりすることの方が一興だと感じるようになってきた。

普段慌ただしい生活をしているからだろうか、こういうときこそしっかりとゆっくりする。あまり自分のことを歳とは思いたくないが、やはり歳を重ねてきたということだろう。

夕食までの時間はお風呂に入り、ゆるりと夕食に向かう。

夕食はそれなりに美味しかったはずだ。何が出たかは忘れたが、長谷川さんとやよいちゃんが少食なため、その分を食べてお腹がいっぱいだったことは覚えている。

お腹がいっぱいになったところで部屋に戻ろうとすると、これからビンゴ大会が始まるようだった。

確かに受付でビンゴ券を渡されていた。どうする?やってく?と相談してやよいちゃんと参戦することにした。長谷川さんはビンゴなんて当たったことないというが、僕も同じだった。

子供会の行事でも町内の祭でも結婚式の二次会でもビンゴでいい思いなどしたことない。

まぁ、部屋でテレビを見るくらいなら旅の思い出として参加するのも悪くない。

大きな宴会場で椅子が所狭しと敷き詰められていた。

司会のお姉さんが豪華賞品があると煽っていたが、毎日やっているイベントなら賞品もたかが知れているはずだ。半分だけ聞いていた。

ビンゴを渡され、いよいよビンゴ開始。

数字が発表されていくのだが、思ったより好調だ。幸先が良い。

あれよあれよという間に、リーチになった。

これは、ある。まだリーチになっている人もいなかった。

数字が発表されていくが、一発ツモとは問屋が卸さない。

リーチになる人がちらほら現れ始めた。

「さぁ最初にビンゴになるのは誰でしょうか。次の番号は・・・3です」

ビンゴだ。

「ビンゴーーーーーーーー!」

浮かれすぎだ。何てったって32年間で初めての一等賞。しゃらっ!

「最初のビンゴが出ました!さ、どこからお越しですか。」

「あ、F県から来ました。」

「そんな遠いところからわざわざ!おめでとうございます。1等はどれを選んでも構いません。」

ヨシヨシ!

ここで2択には決まっていた。旅館の無料宿泊券か折りたたみ自転車だ。やよいちゃんが自転車がいいと言っていたからだ。

ただ、自転車は既にやよいちゃんは持っていた。

だから、長谷川さんと相談して、無料宿泊券にすることにした。長谷川さんもまた来たいという思いがあっただろうし、僕も宿泊が無料になるならまた来てもいいと思った。

「おめでとうございます。当館の無料宿泊券です!」

おおー!という歓声が上がって、とても気分が良かった。

もう満足。淡路島まで来た甲斐があったというものだ。

だが、この選択を後悔することになるとはこの時は微塵も思っていなかった。

とりあえずやよいちゃんがビンゴになるまで待ってから部屋に戻ることにした。

やよいちゃんがビンゴしたのはほとんど最後の方だったが、それでも僕達は浮かれていた。

1等賞ですから。

ルンルンで部屋に戻ってチケットを開けてみた。

「おー!ほんとに無料って書いてある。」

「また来れるやん♪」

「それにしてもすごいな。初めてや。」

「やっぱ先生もってるんやわ。」

ん?

僕はチケットに書いてある小さい文字に目が止まった。

「平日のみ利用可能。利用期限は2018年内」

はい、終わった。

まず平日なんて無理。2018年内もあと4ヶ月しかないから無理。

騙された。

無料宿泊券詐欺だ。みんなにも知っておいてほしい。

無料宿泊券は、

・いつでも泊まれるわけではないこと。

・いつまでも有効ではないこと。

・食事は別料金であること。

これはずるい。無料に惑わされた。

事前に説明すべき事項だろ。

自転車にしておけば良かったと激しく後悔した。

結局Iさんか誰かにあげればいっかという話で終わった。

でも、でもでもでもでも。せっかく1等賞だったのにこれはないぜ。

結局そのチケットは、誰にも渡らないままゴミとなったのであった。

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