教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(46)

小説

営業をやっている長谷川さんは,さすが人付き合いが上手い。

どんな会社やお店にいっても,すぐに相手の懐に入る。

長谷川さんの歯に絹着せぬ物言いがウケるのだろう。

その大半が似てる芸能人を言うことなのだが,出してくる芸能人が古い。

誰が「車だん吉」を知っていると思うのだろうか。

36歳の僕でギリギリだ。お笑いマンガ道場なんて若者が知るわけない。

車だん吉は一例だが,他にもググらないと分からないような芸能人ばかり出してくる。

そしてググると大体似ている。

自分で検索してみせてくれるのならまだいいのだが,長谷川さんのスマホは1GBしかないため,相手にググらせる面倒な人だ。

そんな長谷川さんも隣人とはほとんど会話も交わさない。

関わりたくないのだ。

関わりたくないけど,関わらざるを得ないところが集合住宅の厄介なところだ。

今日は隣人トラブル第二弾を紹介する。

長谷川さんは娘のやよいちゃんに対して,ドぎつい言葉で怒る。

僕も何度か遭遇しているが,「そこまで言わなくてもいいのに」とか「そんなことで怒らんでいいのに」と思うことが多々ある。

長谷川さん自身何でもパパッと取り掛かりも早く,早く終わらせる性分なので,のんびりしているやよいちゃんが許せないのだ。常に「横着な!」と口にしている。

母娘でこんなにも性格が違うものかと思うほどだ。

まぁやよいちゃんもやよいちゃんで,余計なことを言ったり,ワガママなところがあるのでどっちもどっちなのだが。

2人のやりとりを見るたびにうんざりして帰りたくなるw

最近は「またけ、うるさいな。あのな・・・」と言えるようになったが、その時はそういう感じではななかった。

そんなある日、仕事帰りに電話をしているとこんなことがあったようだ。

日中,長谷川さんがやよいちゃんのわがままを叱った。

きっかけは,やよいちゃんの横着な態度だ。

プチンときた長谷川さんは(いつものように),

「一銭も稼げんもんが偉そうに」
「ほんなにイヤなら施設でもどこでも行けや!」
「ここがイヤなんやろ?早く出ていきねや」

と捲し立てた。

やよいちゃんは,「いやだ」なんだとわんわん泣いていたようだ。

一悶着あり,ようやく落ち着いたところにインターホンがなったようだ。

部屋のインターホンを見ると制服姿の男性が2人立っていた。

「すみません,長谷川さんのお宅ですか。警察ですが,少々開けてもらってよろしいですか。」

長谷川さんは何事かと思い,ドアを開けた。

「はい,何でしょうか。」

「あ、すみません、近隣の方から子供さんの泣き叫ぶ声が聞こえたと言うことで、様子を伺いにきました。お子さんいらっしゃいますか。」

長谷川さんは「あ、はい」とやよいちゃんを玄関先に出させた。

やよいちゃんの様子から警察官は「大丈夫そうですね」と去っていたようだ。

長谷川さんは虐待容疑で通報されたのだw

長谷川さんは電話ごしにプリプリ怒っているが、僕は「そりゃそうやわ」と笑わずにはいられない。

「電話したの絶対隣やわ!腹立つ!引きこもり韓国オモニのくせして!」

「はいはい、汚い言葉を使わない。それやでw」

「ほやが、ほんなもん!ずーっと一歩も出んと家にいて。暇人が」

長谷川さんは女手1つで育てているので、働かない女が大嫌いなのだ。

それも相まって憎さ倍増。

小さな市の小さなアパートにイスラエルとパレスチナを見た気がした。

そして、長谷川さんを「S市の火薬庫」と呼ぼうと思った。

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