教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(53)

小説

長谷川さん 担当を切る

前回長谷川さんが家を購入したことを書いた。

言わずもがな,すんなりいく訳がない。

長谷川さんは,他社にも名が知れ渡っているくらい保険業界ではちょっとした有名人だ。

営業で名を上げてきただけあって,他業界の営業にも厳しい。

今回は,長谷川さんの毒牙にかかったかわいそうな若き営業男性の話をしよう。

長谷川さんは某不動産屋Sの建売物件を買おうとしていた。

その担当が体育会系の若き営業マン24歳 Nくん。

イケメンとは言わないが,笑顔が素敵な愛嬌のある男の子だった。

体育会系だけあって,体もガシッとしている。

そんな彼が物件の内覧を担当していた。

長谷川さんが内見をしているところに僕が後から合流した形だ。

和やかに会話が進んでおり,すでにほぼ長谷川さんの中ではそこに決めている感じだった。

長谷川さんがそういう意思を見せると,Nくんも契約資料や物件資料を出してきてはせっせと説明をしていた。

内覧が終わって解散をすると,長谷川さんが言い出した。

「んーなんか頼りないな。あの子。」

「まぁまだ若いでな。」

長谷川さんがそう言うのにはワケがあった。

彼は1つチョンボをしていたのだ。

長谷川さんに物件や契約の流れを説明する際に出した資料の中に,他の契約者の資料も混じっていたのだ。

言うなれば,個人情報が漏れていた状態だ。

「あんなん,絶対あかんで。」

「確かに。」

大体,疑問は疑惑に変わり,不信感へつながり,怒りへと変化していく。

時間が経てば経つほどそうだ。

そして,決定打があった。

契約が進んでいく過程で,長谷川さんにNくんから一本の電話があったのだ。

「印鑑と○万円持って今日会社来てもらえますか。」

ざっくりいうとこういう趣旨の電話だ。

長谷川さん,プッチーンです。

まずはNくんにその場で説教を喰らわせます。

「あんたさ、こっちも忙しいのに今日来れますかって何? そういう大事なことは前持って電話で伝えておくべきじゃないの? 社会人のルール分かってる? 急に言われて印鑑家まで取りに行かなあかんのやし、お金かって用意してなかったらどうすんの? こっちかって暇じゃないんやって!」

「上の人に代わって。」

「あのさ、担当替えてくれます?こんな急に言われて行けるわけないし、前も資料ほかの人の混じってたし、大きな買い物をするのにこれでは信用できません。」

僕は弱者の味方なので、Nくんが気の毒で仕方ありませんでしたが、同じ営業として長谷川さんは許せなかったのでしょう。

「あいつ、腹たつ〜。思わず言ってんたって。」

「そしたら、上の人が担当んなってくれたわwよかったw」

長谷川さんの中に「営業はこうあるべき」というのがある。

だから、自分が客の立場でも相手の粗を突けるのだ。

粗を突かれた営業は、当然ぐうの音も出ない。

しかも長谷川さんは、ど正論を持ってくるからタチが悪いw

僕は密かに思っている。

この市町には、長谷川さんをブラックリストに入れている企業が何社かあるはずだと。

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