教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(9)

小説

越境

土曜、S市の大きな公園で待ち合わせだ。駐車場は至る所にあるが、より人気のないところを指定した。指定したというより、見つけた感じだ。そこの駐車場から歩いて1分のところにある鉄板焼き屋に入った。

少しモダンな雰囲気の店で、少し薄暗いのがちょうどいい。子どもは来そうにないからひとまずは安心できそうだ。いつものように角の席に座った。

「先生飲みます?」

この間、「飲みたい」とか言いつつ、ノンアルコールにした。車で来ているからだ。こういうところが田舎は煩わしい。はしごするのに代行で移動しなければならない時もある。

「長谷川さんどうですか」

「わたしほとんど飲めないんです。」

「全然ですか。」

「いや、少しは飲めますけど、すぐ気持ち悪くなるんです。」

意外だった。見た目が派手なだけに、いかにも飲めそうな感じがした。特に飲まないと会話が弾まない訳でもないので、お互いにノンアルコールカクテルを頼んだ。

仕事の話にプライベートな話、全然気まずくならずに会話が進む。

長谷川さんは特に、職場の人の声マネをしながら説明してくるので、聞いていて飽きない。似てるかどうかさえ分からないのに、つい笑ってしまう。おそらく盛られているとは思うが、きっと似ているのだろう。また、名前を出して説明するため、自分まで職場の人の名前を覚えてしまった。聞くと、保険業界では70歳後半のおばちゃんまでいることはそんなに珍しくないようだ。そんな歳まで働こうとは思わないが、女性はやはりバイタリティーがある。しかし、長谷川さん的には、職場に「仕事もせんと話に来ているだけ」のおばちゃんは目障りのようだ。

全く知らない保険業界の話だったが、長谷川さんのおかげで少し保険業界とその働き方を知ることができた。

お互いに食事が終わり、店を出ることにした。

なんだかんだで2時間ほどいたようだ。時間は午後10時。

駐車場はすぐそこだが、長谷川さんが僕の腕を取り横にくっついてきた。いい香りが鼻をついた。

駐車場に着き、「帰りますか」と言おうとした時、先を越された。

「この後どうします、先生。」

「いや、もう帰ろうかなと。」

「えーもうちょっと一緒にいたい。」

・・・・

「行きます?ホテル。」

な!!!!!!!!!

聞き間違いだろうか。まだ2人で会うのは3回目だ。それも短時間のご飯をしただけ。この展開は早すぎないか。なら、いつなら早くないのか、という話になってくるが、結局僕は、彼女が「大人」だと思った。散歩でもしようかなと思っていた自分が青二才に思えた。いらない駆け引きなど無用。大人の男女とは、そういうものなのだろうか。いや、長谷川さんがきっとそうなのだろう。

30歳、まだまだ修行が足りないようだ。

自分でどんな顔をしていたか分からないが、とりあえず平常心を装って答えた。

「行きますか。」

ホテルまでの道中は、期待と不安が入り混じっていた。

10歳上の女性との情事に期待とそして好奇心割り込んできた。ただ一抹の不安もあった。男なら誰でもみるであろうAVで四十路ものがあまり好きではなかった。すごくおばちゃん感が出ているからだ。至る所が垂れており、見るに耐えない。そんなこともふと頭をよぎった。

しかし、情事を終えた僕は、考えを改めることになった。

「四十路は綺麗である。」と。

自分の認識が大きく間違っていたことに気付かされた。ここ数年なかった大きな発見。得るものがあった。

同時にいよいよ、38度線を超えてしまったと思った。

コメント

タイトルとURLをコピーしました