教師と保護者の恋愛小説「わかっているけど」(44)

小説

ペロを預かってもらってから1ヶ月後,春休みも終わる頃,ペロが僕の家に引っ越すことになった。

僕の家は二世帯で,僕は母家から30mほどの離れに住んでいる。

最近リフォームしたばかりなので1階部分は新しい。

ただし,親が使っていたものがいくつか置かれているため,全部が全部自分色かというとそうでもない。

親は使えるものは使う主義なので,部屋に合う合わないは関係なく親が使っていたテレビ台が僕の部屋にある。

白を基調とした部屋なのに,ボルドー色のテレビ台が鎮座している。

テレビを見ないので全く要らないが,そうは言っても他に置くところもない。

ミニマリストに憧れる僕は,必要最低限の物があれば良いし,必要最低限の物の質を高めたいと思っている。

しかし,性格なのだろうか,それとも育った環境なのだろうか,すぐ要らないものが溜まっていく。

貯まるのはお金だけにしてほしい。

そんな家にペロが来ることになるのだが,実は親に了承を取っていなかった。

どの本を開いてもYouTubeを見ても,犬や猫を飼うときには,同居家族の了承が必要だと言っていた。

離れに住んではいるものの,親も行き来するため,話しておく必要はあった。

ただ,僕の家は元来ペットなんて飼ったこともなければ,そこまで動物に対して愛着もあるわけでもない。

昔,学校で飼っていたウサギを家に連れて帰ったときは数日であったし,ウサギはうんともすんとも鳴かないので特に何を言われるでもなかった。

しかし,今回は十数年にわたってお世話をしなければならない相手だ。

ましてや犬。ハムスターや鳥とは訳が違う。

いつ言おうか考えていた矢先,家にペット保険会社からの封書が来ていた。

不審に思った父親が「これなんや」と聞いてきた。

どこか不機嫌そうな感じだ。

「犬飼うことにしたで。」

「なんでそうなるんや。」

「ペットを飼うってどんなんかなと思って。」

そこからなんて言われたかは覚えていない。

母親も不服そうだ。

まぁそうだろう。結婚より先にペットを飼い出したのだから。

僕が親の立場でも不審がるし,心配する。

気持ちは分かるため,いちいち食ってもかからない。

親の協力が得られない体でペロを飼うことにしたのだから,別に問題はない。

1人暮らしでペットを飼っている人なんて大勢いる。

そうやって数日が経ったある日,まずは母親が味方になった。

子犬の可愛さとおやつを食べる愛らしさに人情が出てきたのだろう。

洗濯をしたり,冷蔵庫に物を取りに来るときにおやつをあげるようになった。

次第に,抱っこをして外に連れ出すようになった。

うんちを処理し,車にのせて散歩まで行かせるようになった。

そんな妻を見てか,父親も次第に興味を示し出した。

なぜなら,ペロが父親にだけ吠えるからだ。

家族の一員としては面白くないのだろう。

次第に父親も抱っこしたり,散歩をしてくれるようになった。

男兄弟で家族に会話がなかったが,ペロのことで会話が始まり,ペロの行動で盛り上がることも増えた。

ペロがもたらしたものは我が家にとっては大きかった。

我が家内だけでなく,檀家さんとのコミュニケーションのネタともなっている。

犬の生態に触れることで,飼い主の気持ちを考えたり,犬種に興味を持ったりするなど,ペットを飼うことで僕を含め家族全員が視野の広がりを感じたのではないだろうか。

ペットを飼うということは,お世話をする大変さはあるが,それ以上の価値に出会える機会だとも思う。

今回長谷川さんは登場しなかったが,長谷川さんの嗜好まで変えるのだから,犬というのは生涯で一度は飼うべき動物なのかもしれない。

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